傘を買う。
大都会は雨だった。
故人の魂を優しく見送るにはあまりにも激しく、そのエネルギーをぶつけていた。
僕はどうしても抑えきれずに涙を流す。
自分とは何のつながりがなくても、寂しく悲しい気持ちは共有できる。
まだ、自分には永久の別れの時が来ていないというだけで、それは時の刻みとともに確実に近づく一瞬でもある。
雨はますます激しさを増し、台風並みの風が僕らの喪服を濡らす。
濡れているのは服だけではなかった。
そんな僕らを雨から守ってくれる傘はあまりにも無力で、
折れた骨が、同じくその命を終え、旅立っていく時であることを告げていた。
だから僕は、新しい傘を買った。
長年愛用した、これも東京で買った傘と引き換えに...
キミも、安らかな眠りにつくんだね。
キミの「ふるさと」へ返してあげるよ。
さよなら...
店の片隅に立てかけられた傘は、廃棄される時を待つ姿は、傷つき、とても弱々しく見えた。
降り止まない雨の中、故人は家族に見守られながら去っていった。
僕はひとり、いつまでもその場に佇んでいた。
悲しかったからじゃなく、重かったから。
身体が鉛のように地面にめり込んでいった。
真新しい傘だけが、かろうじて僕を支えてくれてた。
※どこかで新しい生命が誕生し、その魂は受け継がれていく。
by ten2547 | 2006-10-06 23:09 | 日常