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霧の中

街中に立ち込める霧に紛れて得体の知れない魔物が人間に襲い掛かる。

突如訪れた異常な世界の中で、人々が体験する恐怖と、狂気を描いた映画「ミスト」は、モンスターというありふれた設定を借りて、人間の愚かさと、何が正しいかは誰にもわからないということを、悲劇的なラストシーンと静かな静かなエンドタイトルの中でずしりと語りかける。

この手の映画の定番である、ヒーロー、ヒロインの活躍とそれに従う勇敢な人々の努力によってハッピーエンドが明るい音楽に乗せて描かれることはなく、結局愛する家族を誰一人として救うことができなかったばかりか、最愛の息子を自らの手で死なせてしまう哀れな父親=ヒーローをトラックの上から見下ろすあの女性こそ、この映画が描きたかったことなのかもしれない。

彼も一見みんなを正しい方向へ導くリーダーのようで、自分の家族を守るために、あの女性の助けを求める声に応えなかった自己中心的な存在であり、頭がおかしいと避けてきた宗教女の言う通り、神の報いを受けてしまったわけ?
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
この映画に出てくる人物は誰も正解ではないし、誰も間違ってもいない。
極限の恐怖の中で生き残る道を選択することは至難の業だし、出て行っても居残っても結局は死ぬしかないかもしれないし、全ては霧の中で見えないわけだし、だんだん精神状態もおかしくなって、当初頭がおかしいと敬遠されていた宗教女が大勢の人々を扇動し、支配したわけだし、善悪や好悪やありとあらゆる価値観が一瞬で入れ替わる人間こそ、真のモンスターなんだろう。


※人生はまさに五里霧中

by ten2547 | 2008-11-02 21:27 | 映画