深爪の大罪

お宅の若いの、最近見ないようだけど、具合でも悪いのかい?
あの子は今ね、ちょっと遠くへ行ってるんですよ。何でも本場の味付けを身につけるんだって言って、修行できるのも今のうちですからね。好きにさせてるんですよ。
そうかい。それならいいけど。まさか、あの世に行ったなんてことはないだろうな。この間オレ聞いちゃったんだぜ、アンタ達が言い争ってるの。結構激しくやり合ってたよな。
ああ、あんなのしょっちゅうですよ。お互い譲らない性格だからねェ。知ってるだろ?アタシの気性が激しいのは。昔からああやって切磋琢磨してきたんだ。憎くて言ってるんじゃない。一人前になって欲しいから言うんだ。あの子だってその辺はちゃんとわかってるんです。もう子供じゃないんだし。

女将はいつもより爪を深く切っていた。肉に食い込んで痛そうに見えた。
きっと割れたんだろうな、とオレは勝手に想像していた。だから深爪せざるを得なくなった。
それほどの感情が彼女を支配したんだ。
可愛さ余って...か。

で、いつ戻って来るんだい?若いのは....


※今日も戻ってこなかった僕を探すために、僕は全てを放棄した。
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by ten2547 | 2008-06-16 21:49 | 戯言